日本肩関節学会名誉会員であられました伊藤博元先生は2022年3月25日ご逝去されました。私を肩関節外科の道に導き、直接ご指導して戴いた感謝の意を込めて謹んで追悼文を寄稿申し上げます。
伊藤先生は1970年3月日本医科大学を卒業され、1970年6月日本医科大学整形外科学教室に入局されました。1975年3月日本医科大学院を修了され、1979年には米国コロンビア大学にご留学されました。コロンビア大学では、肩関節外科の先駆者であるCS Neer教授指導の下で、inferior capsular shift、人工肩関節置換術などの手術を含めた肩関節外科の診断・治療を学ばれたとのことでした。米国帰国後、1981年に講師、1987年に助教授、2001年には主任教授となられました。2011年に退官されるまで10年間日本医科大学整形外科学教室を率いて、ご自身が肩関節外科医としての臨床・研究活動を続けながら、若手整形外科医の教育・育成、大学院教授としての学位論文指導、医局員の基礎・臨床研究のサポートを行い、さらには医学部長として医学生の教育にも携わっておられました。
私が日本医科大学整形外科学教室に入局した1988年に開催された第15回日本肩関節研究会に、私の指導医が肩関節グループに所属していたこともあり、指導医とともに参加させて頂きました。主題が「肩のimpingement」でしたが、当時研修医で肩関節外科医を志してもいなかった私は当然ながらimpingementの意味も分かりませんでした。指導医の先生に「impingementって何ですか?」と聞いたことが伊藤先生の耳に入り、「impingementも知らない人間がよく肩関節研究会に来たなあ」と伊藤先生に笑われてしまいましたが、本会に出席したことで私は肩関節に強い興味を抱き、肩関節外科医を目指すきっかけとなりました。その後、伊藤先生は1993年日本肩関節学会・幹事(現・代議員)となられ、2006年には第33回日本肩関節学会の会長を務められました。学会運営のお手伝いをさせて頂き、さらには主題であった「上腕骨近位端骨折」の演者にも指名して戴いたこと、また特別講演にお招きした、伊藤先生がコロンビア大学留学時代にNeer教授の下でともに肩関節外科を学ばれたHospital for Special SurgeryのEV Craig先生のお世話をさせて頂いたことなど様々なことが思い出されます。
私が2018年日本肩関節学会の理事を拝命し、その報告を伊藤先生にさせて頂いた際には、30年前に「よく肩関節研究会に来たなあ」と笑いながら言われた時と同じ笑顔と口調で「橋口も偉くなったもんだなあ」と言われ、大変に感慨深いものがありました。2019年の同門会でお会いした後はコロナ禍もあり、お目にかかれることはありませんでした。2022年3月突然の訃報を聞き、痛惜に堪えませんでした。
伊藤先生より戴いたご教示を心に刻み、ご厚恩に応えていくことを誓い、今後とも肩関節外科の発展のため微力ではありますが尽力して参る所存です。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
(文責 橋口 宏)
- 伊藤博元先生