日本肩関節学会50年史

櫻井 實先生 紹介文

東北大学大学院医学系研究科医科学専攻
外科病態学講座整形外科学分野
教授 井樋栄二

私どもが敬愛します櫻井實先生が2017年5月1日に逝去されました。4月6日に間質性肺炎で緊急入院され、4月中旬には一時容体が改善したものの、その後、肺炎が再び悪化し、5月1日に帰らぬ人となりました。享年84歳でした。

櫻井實先生は末梢神経を専門にしておられましたが、もともとは生理学がお好きで、電気生理学的な手法を用いた末梢神経損傷部位診断や神経麻痺による発汗障害を感知するブロムフェノール法の開発者として世界的によく知られています。また、麻痺肩、麻痺肘の再建を数多く手がけてこられ、1988年には第15回日本肩関節研究会(日本肩関節学会の前身)の会長を務められました。私はそのとき櫻井先生からBateman法という機能再建術を行った麻痺肩患者の長期成績を調査するという課題を与えられましたが、これが私の肩関節外科医として歩むきっかけとなりました。私の人生の大きな方向性を示して下さった櫻井先生に心から感謝申し上げます。櫻井先生はその後1994年には第67回日本整形外科学会学術総会を開催されました。その学会では日整会として初めて国際シンポジウムをプログラムに組み込み、世界各国から専門家を招いたり、近隣諸国との友好を深めるためにベトナムの先生方を学会に招くなど、日本整形外科学会国際化の最先端を走っておられました。

櫻井實先生は文才にも長けておられ、名著「艮陵の教授たち」は有名です。また、絵画も得意で、ご自分で描かれた日本画を学会抄録集の表紙に使うこともありましたし、展覧会にも定期的に出品しておられました。1988年に日本肩関節研究会会長をされたときには抄録集の表紙にご自分で描かれた松島の五大堂の絵を使われました。退職後は、奥様とお二人で京都に移られ、4年ほどの期間、寺社仏閣を訪れたり、絵を描いたり、コンサートを聴きに行ったりと日本の文化、建築、芸術を心ゆくまで楽しんでおられました。先日の絵画展では、先生の遺作「風を聴く」を鑑賞させていただき、在りし日の先生の思い出に浸ることができました。

先生が楽しみにされていた日整会学術総会開催の直前に亡くなられたことは大変残念ではありますが、その学会が盛会裡に終わりましたことをご報告申し上げ、櫻井實先生のご冥福をお祈り申し上げます。

  • 櫻井實先生
    1932年(昭和 7年)12月14日生
    2017年(平成29年)5月1日逝去(享年84歳)

略歴

1932年(昭和 7年)    12月14日生
1957年(昭和32年) 3月 東北大学医学部卒業
1962年(昭和37年) 3月 東北大学大学院博士課程修了、医学博士学位取得
1962年(昭和37年) 4月 東北大学医学部助手
1962年(昭和37年) 7月 文部省在外研究員としてブラウン大学(米国)生物学教室留学
1963年(昭和38年) 9月 ニューヨーク大学整形外科講師
1965年(昭和40年)10月 厚生技官医療職(国立西多賀病院)
1967年(昭和42年) 7月 東北大学医学部講師
1973年(昭和48年) 1月 東北大学医学部助教授
1986年(昭和61年) 4月 東北大学医学部教授(整形外科学講座担当、形成外科科長併任)
1994年(平成 6年) 4月 東北大学医学部障害科学機能回復外科学分野教授併任
1995年(平成 7年) 3月 東北大学退官
1995年(平成 7年) 4月 東北大学名誉教授
1995年(平成 7年) 4月 公立学校共済組合東北中央病院院長
2003年(平成15年) 4月 公立学校共済組合東北中央病院名誉院長
2017年(平成29年)    5月1日 逝去(享年84歳)

略歴

1982年(昭和57年)7月3日 第5回日本骨関節感染症研究会(日本骨・関節感染症学会)会長
1988年(昭和63年)5月13日~14日 第71回東北整形災害外科学会会長
1988年(昭和63年)10月14日~15日 第15回日本肩関節研究会(日本肩関節学会)会長
1990年(平成2年)6月3日 第2回日本理学診療医学会(日本運動器科学会)会長
1990年(平成2年)9月29日 第4回日本靴医学会会長
1991年(平成3年)11月29日~30日 第78回東北整形災害外科学会会長
1994年(平成6年)5月12日~14日 第67回日本整形外科学会学術総会会長
2017年(平成29年)5月 従四位瑞宝小綬章

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