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左手から、竹下先生奥様 初美様、竹下満先生、原正文先生(現名誉会員)
第38回日本肩関節学会学術集会会長招宴にて(2011.10.6; ホテルオークラ福岡:柴田陽三会長)
竹下満先生は、ここ数年体調がすぐれないとはお伺いしておりましたが、2023年6月18日ご逝去の訃報を伺い大変驚き、また残念な思いを致しております。
ここに先生の思い出に触れながら、謹んで哀悼の意を表したいと存じます。
竹下満先生は、1967年に九州大学医学部をご卒業後、九州大学整形外科学教室に入局され、1976年に高岸直人教授が主催される福岡大学医学部整形外科学教室に入局なさいました。竹下先生は入局後、肩関節外科学の研究に携われ、私が入局した1981年には高岸教授の片腕として、また関節研究班の指導者として御活躍でした。竹下先生は胸郭出口症候群(TOS)の診断学に興味を持たれ、当時は客観的評価法が乏しかったTOSの新しい画像診断法である腕神経叢造影法を開発されました。TOSは斜角筋三角部と鎖骨、第一肋骨の間を通過する腕神経叢、鎖骨下動静脈が上肢の挙上によって圧迫されて、神経圧迫症状、血管圧迫症状を呈してくる疾患です。先生は上肢の神経圧迫症状に着目され、脊髄造影のような腕神経叢の圧迫状態を客観的にとらえる検査法の開発が急務と考え多大なご苦労の元に腕神経造影法1)を開発されました。具体的には局所麻酔薬と造影剤の混合液をX線透視下に腕神経叢周辺に注入して、造影剤の中に索状に走行する腕神経叢そのものを視認可能にされました。TOSの患者さんは一般的には上肢下垂位で症状がありませんが、肩関節を外転挙上すると上肢のしびれ感、冷感を訴えられます。TOSの患者さんは腕神経叢造影後、肩関節を外転挙上すると、肋鎖間隙や斜角筋三角部、小胸筋下等で腕神経叢の圧迫状態を明確に観察出来ました。それまでは動脈造影や静脈造影によって血管の圧迫状態を視覚化する手法はありましたが、腕神経叢そのものの圧迫状態を初めて視認可能にした画期的な画像検査法でありました。
1986年10月28~30日に福岡で高岸直人教授が主催されました3rd International Congress on Surgery of the Shoulderにおきましては、その開催に際し中心的な業務を担っておられました。さらに当時、国際肩関節学会の開催準備と私の学位論文の作成時期と重なっており大変多忙な中、丁寧な学位指導を賜りまして御礼の言葉もありません。この場をお借りして心より御礼申し上げます。
また先生は当時福岡大学に事務局が置かれていた日本肩関節学会の事務局長を1985年10月から1992年5月まで任じておられました。現在の日本肩関節学会の黎明期において学会の体制を軌道に乗せられた功労者でいらっしゃいました。そのご功績から2007年に本学会の名誉会員に就任なさってあります。
思い出せば、先生は堅苦しい事がお嫌いで、とても親しみやすい方でした。肩関節外科の研究に尽力なさる傍ら、麻雀やお酒をこよなく愛しておられ、先生の口癖である「君、なに言っとるの。そんなこと言うたらあかんがな。」という言葉が今でも聞こえてくるような気がし、先生から御指導を頂いた当時の事が懐かしく思い浮んで参ります。
先生の御指導、ご尽力のおかげで日本肩関節学会は会員数2000名を超える大変大きな学会に発展致しました。そして先生の意志を引き続く多くの優秀な肩関節外科医が全国に育っております。学会の将来は後輩の医師達にお任せ頂き、どうぞ安らかにお休み下さい。本当にありがとうございました。
合掌。
日本肩関節学会名誉会員
福岡大学筑紫病院臨床医学研究センター(整形外科)
教授 柴田陽三
1)胸郭出口症候群の診断における臨床的、解剖学的研究 -腕神経叢造影について- 竹下満 医学研究 第56巻第1号;1-19, 昭和61年3月発行