日本肩関節学会50年史

平成後期から令和への発展

肩の運動機能研究会の発足

筒井廣明(第31回日本肩関節学会会長)
山口光國(第1回肩の運動機能研究会会長)

日本肩関節研究会は世界に先駆け1974年に発足し、経験則だけに基づいた治療からの脱却を図るため、科学的根拠を基本とし、その上で自身の持論に基づき、上下の関係に捉われず熱く討議する場として歩んできたと思っています。
第31回日本肩関節学会学術集会は、「温故知新」をテーマとして選び、海外における肩関節の歴史と、それぞれの国が今後どのような展望を持っているかを参加された方々に知っていただくこと、そして、国内においては、肩に興味を持つ仲間を増やし、切磋琢磨する場を提供することを目標に掲げました。
以前より、臨床の場で医師と密な連携が求められるコメディカルには、自分たちの観点から上肢の機能について、自らの考えを遠慮なく話し合える場が必要であると考えておりました。更に、医師とコメディカルがお互いの考え方や知識の共有を図ることが日本肩関節学会の発展につながると考え、「肩の運動機能研究会」を発足させました。
今では当たり前となりましたが、本研究会は当時、それぞれの職種のつながりを作る、臨床のヒントを共有する、学問としてだけではなく肩を扱うチーム作りする、という事を実現する場として、世界初の試みとして開催しました。
医学会である日本肩関節学会学術集会に、医師以外の様々な医療に関わる職種も参加し、学術的な背景も教育するために学会の聴講を許可したこと、同時に、医学会ではない肩の運動機能研究会への医師の積極的参加を促す試みは、発足当初、賛否両論あり課題や問題が山積みであったことは間違いありません。
しかし、たとえ職種が違っていても理念を共有し、職の垣根を越えた活発な意見交換は、職種間の横のつながりを創り出し、学術的とは言えない発表であったとしても、臨床に役立つことは否定せずに、貴重な臨床のヒントであると互いに共有し合う姿勢は、当初の目的でもある情報の交換・共有としての場として意味のある会であったと信じています。

このような経緯と想いを込めて第1回を開催し、その後も皆さんが継続して日本肩関節学会学術集会に併催してくださっているのが「肩の運動機能研究会」です。
本研究会も早いもので既に20回目を迎えました。参加人数もどんどん増えた事で、当初の開催目的とだいぶ様変わりしてきたような気がします。

様々な身体機能的及び心理的な因子の影響を受け変容する「肩」の臨床では、症例に関わる多種多様な職種の横断的な情報交換ならびに知識の共有が必須であり、医師だけでなく、それぞれの職種の専門性を活かし、医師を核にした横のつながり、つまり本来の臨床を支えるチームとしての対応が重要となります。

「日本肩の運動機能研究会」として立場が変わりましたが、これからも1例1例の症例を大切にするための素晴らしい内容の討論が出来る会として日本肩関節学会学術集会とはちょっと異なる形で、発展してくれることを期待しています。


日本肩の運動機能研究会発足への道のり

研究会運営委員会元委員長浜田純一郎

研究会代表世話人村木孝行

1. 2015年での肩の運動機能研究会の状況

2015年代議員に選出され、玉井和哉元理事長から「肩の運動機能研究会のあり方ワーキンググループ」(以下研究会WG)委員長就任の辞令を受けたのはその年の11月であった。2015年仙台市で開催された第12回肩の運動機能研究会(以下研究会)の参加者は630名となり、研究会主催者や参加者から以下の問題点を指摘されていた。

  • 会員名簿がないため事前に抄録を郵送できず、開催当日に手渡しである。
  • 事務局がないため情報提供はなく、しかも連絡を取りたくてもできない。
  • 研究会の発表は医学中央雑誌に登録されず、業績として残らない。
  • 研究会への参加職種をどのようにするのか。
  • 研究会での発表者の職種をどのように設定するのか。
  • 日本理学療法学術大会(3日間)の参加費が1.1万円であるが、研究会の参加費は1.2万円であり理学・作業療法士からすると高額である。

研究会は日本肩関節学会(以下肩関節学会)と同時開催され、研究会の学術業績を残すために会員制の公的組織にすべき時期になっていた。研究会WGの初代メンバーは担当理事: 中川照彦、委員長: 浜田純一郎、副委員長: 村木孝行、委員: 甲斐義浩、高村隆、立花 孝、山口光國、菊川和彦、小林尚文、田中稔、森原徹、オブザーバー: 玉井和哉(敬称略)であった。

2. 2016年度には研究会を公的機関にする合意がえられた

2016年4月に研究会の問題点と将来のあり方について研究会WGの各委員から意見聴取した。また広島市で開催された第13回研究会の参加者203名に対しアンケート調査をおこなった。アンケート調査から理学療法士の参加が圧倒的に多い、本研究会の他職種への認知度が低い、参加費が高すぎる、会員制とするメリットが大きい、大多数が論文を投稿できる機関紙が必要、公的組織にすべきとの意見が多数を占めた。各委員および参加者の意見をまとめると研究会を公的会員制組織とし、学会・研究会データベースに登録、雑誌肩関節のような機関紙の発行を目指すという基本方針が決まった。そして第13回研究会期間中の10月21日に委員長の浜田と副委員長の村木とで上記の方針を伝えるため研究会参加者を対象に説明会を開催した。

3. 2017年の進捗状況

研究会を具体的にどのような組織にするか研究会WGで議論した年である。その結果、これまでと同様に研究会の会長を肩関節学会会長が指名し、研究会を肩関節学会と同時開催する体制を維持する。研究会の開催サポート、会員把握、情報提供を目的とした研究会事務局を設置する。この研究会のあり方を肩関節学会の理事会、社員総会に答申し研究会の組織作りの許可を得た。

4. 2018年の進捗状況

2018年11月から研究会組織を発足すべく、組織運営に必要な具体的事項を決定する重要な年であった。研究会運営のために、(1)2018年の事業計画と予算案、(2)研究会会則の承認、(3)理事会の設置、(4)会員募集、入会金、会費の設定の4項目でした。これらの案を作成し10月18日に大阪市で開催された社員総会で承認され、研究会の事務局発足、会員の募集を開始する予定だったが、不覚にも発足は承認されず2019年度に持ち越しとなった。その理由は、(1)肩関節学会と研究会の組織関係が明確でない、(2)肩関節学会内に異なる予算体系が存在する、の2点でした。この時、研究会と肩関節学会の組織図について4通りの構想を作成していたが、まず組織図の選択を理事会に図るべきであったと深く反省した。

5. 2019年の進捗状況

2019年度は研究会と肩関節学会の組織図を決定するために理事会に案を提出した。その結果、10月の社員総会で「肩の運動機能研究会」の名称を「日本肩の運動機能研究会」に改名。そして、「肩の運動機能研究会のあり方ワーキンググループ」の名称も「日本肩の運動機能研究会運営委員会」(以下、運営委員会)に変更された。研究会組織は肩関節学会に包括され、その運営は運営委員会の元に行われるとの判断から下記の組織図(図1)が決定された。そのため研究会の理事会も不要となり、研究会をサポートする世話人会が設置された。

研究会の参加者を分析すると200名は肩関節学会の準会員、200名が準会員ではない発表者、600名が準会員ではない研究会の聴講のみの者という3層構造になっていた。そこで肩関節学会の会員制度を下記のように設定した。すなわち研究会の会員は存在せず、すべて肩関節学会の会員であり、準会員1、2号で研究会を構成する形である。

・正会員

医師であること、入会金、年会費、権利は従来通り

・準会員1号

コメディカル
肩学会・研究会ともに発表可、JSES、雑誌「肩関節」の無料購読可、雑誌「肩関節」に投稿可(肩関節学会学術集会での発表演題のみ)
研究会情報提供(抄録集の郵送含む)
入会金 5000円、年会費 15000円

・準会員2号

コメディカル
研究会のみ発表可、肩関節学会聴講可、雑誌「肩関節」の無料購読可・投稿不可、研究会情報提供(抄録集の郵送含む)
入会金 5000円、年会費 5000円

  • 図1)日本肩の運動機能研究会運営委員会の下に研究会世話人会が位置する。
    日本肩関節学会の主催する学術集会が日本肩関節学会学術集会と日本肩の運動機能研究会学術集会である。

6. 2020年の進捗状況

研究会の運営をサポートする世話人会メンバーとして、代表世話人に村木孝行、副代表世話人は高濱 照、立花 孝、世話人として甲斐義浩、高村 隆、千葉慎一、三浦雄一郎、宮下浩二、山崎 肇、遊佐 隆(敬称略)の7名が選出された。

2020年度の研究会発表から発表者および共同演者も準会員でなくてはならないと決まった。肩関節学会ホームページ上に「日本肩の運動機能研究会 Japanese Society of Shoulder Function Research (JSSFR)」を開設し2020年3月から準会員1号および2号の募集を開始した。準会員の手続きについて、肩関節学会の正会員2名の推薦が必要であり、以前の準会員は準会員1号に移行した。これにより研究会の組織運営が正式に開始された。

7. 2021~2022年の進捗状況

名古屋市で開催された2021年10月28日の社員総会で、運営委員会の委員長を森原 徹先生に交代し私はアドバイサーになった。この5年間で研究会組織の基礎を固めることができたと確信している。2022年度には社員総会において残念ながら運営委員会会則は承認されなかった。2022年度森原先生は担当理事となり、11月27日の委員会にて船越忠直先生が第3代委員長に就任した。

8. 2023年の躍進

本年の大きな目標であった運営委員会会則は2023年10月12日の社員総会で承認された。9月にローマで開催された第15回国際肩肘学会(ICSES)では第7回国際肩肘セラピスト学会(ICSET)も併催された。これまではICSETの開催母体がなかったため、毎回の開催が不透明であった。しかし、2023年に日本、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカ合衆国の4か国により国際肩肘セラピスト学会連合(ICSSSET)が設立され、ICSETの母体組織が形成された。今後日本は積極的に英語で情報発信する責務があり、日本肩の運動機能研究会として支援する必要がある。同時に日本国内での臨床および研究の充実を図るとともに、若手の国際的な活躍を推進しなくてはならない。

また第20回日本肩の運動機能研究会では会長の松村 昇先生が「研究会のあゆみと今後の展望」と題する座談会を開催してくださった。司会を森原担当理事が、コメンテータとして筒井廣明、浜田純一郎、船越忠直、山口光國、村木孝行が登壇しさまざまな角度から意見を交わした。研究会の基盤が整ったが、今後は参加者である医療従事者を主役とする視点から日本肩の運動機能研究会の発展に尽力する必要がある。