会長
井樋栄二
第42回日本肩関節学会学術集会は2015年10月9日(金)−10日(土)の2日間、仙台で開催されました。日本肩関節学会の長い歴史のなかで、仙台開催は1988年(第15回)の櫻井實会長、2010年(第37回)の熊谷純会長に続いて3回目ということになります。東北大学整形外科の教室員および同窓会員にとりまして大変光栄なことであり、学会員の皆さんに感謝申し上げます。
日本肩関節学会は1974年に創設された世界でもっとも歴史の古い肩の学会です。創設当初は87名だった会員数もこの学術集会が開催された2015年時点で1700名を超しており、歴史、会員数ともに世界一の肩学会に成長しました。日本肩関節学会が大きな存在感を示す理由は学会の歴史と規模だけではなく、その研究の独創性にあります。本学会は、臨床では何千、何万という海外の圧倒的な症例数にかないませんが、病態を明らかにする基礎研究分野では数多くの輝かしい業績をあげてきました。例えば動揺性肩関節という病態は遠藤寿男先生が1971年に中部整災誌に報告したのが世界で最初です。その9年後、1980年にCharles Neer先生がJBJS-AmにMDIとして報告して以来、その概念が世界に広まりました。遠藤寿男先生の仕事は、和文で書かれたため長らく埋もれていましたが、英訳版が2012年のJSESに古典論文として掲載され、ようやく世界に認知されるようになりました。また、信原克哉先生の腱板疎部損傷も1987年にClinical Orthopaedicsに掲載されて世界がその病態を知るところとなりました。このように基本的な病態研究においては世界を牽引する学会でありながら、近年は細かい手術手技などに目を奪われる若者が増えてきていることに危機感を持ち、本学術集会の標語を「肩の病態解明を目指して」としました。お陰様で病態に関する質の高い演題を数多くお寄せいただき、演題応募数は460題、学会参加者は1517名とどちらも過去最高を記録しました。一方で、質の高い発表はぜひ皆で聞きたいという思いから、口演会場をできるだけ限定して、口演採択は65演題に限定しました。採択率が14%と米国整形外科学会(AAOS)並みに厳しくなったのはそのためです。残りの演題はポスター発表にしましたが、幸い国連防災世界会議のために新設された広大な展示会場を目一杯使って多くの先生方に議論を戦わせてもらいました(図1)。
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図1)ポスター会場
ポスター演題は370題あったが、すべて一つの会場に展示し、活発な議論がなされた。ワインやチーズも振る舞われ、議論にますます熱が入った。
もう一つ、近年危惧していることが若者の内向き志向です。本学会は和文誌(肩関節)と英文誌(JSES)をもっていますが、和文誌への投稿が英文誌の10倍もあります。もっと英文誌へ投稿するように呼びかけてきましたが、その成果が少しずつ現れてきています。2014年に佐賀で開催された第41回本学術集会では森澤佳三会長がglobalizationをテーマに英語セッションを大幅に増やして下さいました。この流れに乗って、国際化、世界化の流れを押し進めたいというのが本学術集会のもう一つの大きな目標です。今回の特別企画「世界の肩関節外科の歴史」も、国際化の意識高揚のために世界の4大大陸から肩関節外科の重鎮をお招きしました(図2)。ヨーロッパからはオーストリアのHerbert Resch先生、アジアからは韓国のKwang-Jin Rhee先生、北米からは米国のRobert J. Neviaser先生、南米からはブラジルのSergio L. Checchia先生です。それぞれの先生に各大陸での肩関節外科の歴史、肩学会の誕生と発展、また大陸間の交流について講演してもらいました。また、日本肩関節学会を代表して学会創始者の一人である信原克哉先生に日本と諸外国との肩交流の歴史について講演をお願いしました。この企画を通して、若手会員が世界に目を向けてくれることを期待しています。
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図2)特別企画「世界の肩関節外科の歴史」
左から筆者、信原克哉先生、ブラジルのSergio Checchia先生、オーストリアのHerbert Resch先生、韓国のKwang-Jin Rhee先生、米国のRobert Neviaser先生
そのほかに本学術集会の特徴として、これまで若手の教育研修会は学術集会終了翌日に開催していましたが、今回初めて学術集会のプログラムの中に教育研修会を2時間枠で組み込むことができました。また、本学術集会に先立って、2015年9月には札幌医大の協力を得て、学会主催の第1回「屍体肩を使った手術手技研修」を行いました。
仙台は2011年3月11日の東日本大震災で大きな被害を受けました。今でも沿岸地域では復興は思うように進んでいません。今回の学術集会ではプログラム外の企画として被災地見学を企画しました。写真やテレビでみるのと本物を自分の目で見るのとでは大違いです。一度被災地をみていただくと、その強烈な印象が明日からの防災意識の向上に必ずつながります。
全員懇親会のアトラクションでは、みちのくプロレスの皆さんに登場してもらいました(図3~5)。参加者の皆さんはプロレスの迫力ある技にすっかり魅せられて、お酒や料理には手をつけずに演技に見惚れていました。そしてプロレスショーが終わると皆さんはそのまま街に流れてしまいました。結果として、寿司、牛タンが大量に残ってしまい、途方に暮れていましたが、なんと6名のプロレスラーが綺麗に平らげてくれました。あらゆる点で思い出に残る学術集会でした。ご参加、ご協力下さった学会員の皆さんに厚く御礼申し上げます。
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図3)懇親会アトラクション(プロレス演技)
みちのくプロレスの華麗な技とそれに酔いしれる聴衆
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図4)懇親会アトラクション(プロレス声援)
みちのくプロレスは学会以上の盛り上がりをみせていた。
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図5)熱狂的声援
日欧交換留学生(スイスのWieser先生とトルコのErsen先生)の後ろでプロレスに熱狂的声援を送るブラジルのChecchia先生。
海外からの招待講師
- Robert J. Neviaser先生(米国)
- Kwang-Jin Rhee先生(韓国)
- Herbert Resch先生(オーストリア)
- Sergio L. Checchia先生(ブラジル)
- Ki-Yong Byun先生(韓国肩肘学会会長)
- Jeremy S. Lewis先生(英国、肩の運動機能研究会招待講師)
日欧交換留学生
- Ali Ersen先生(トルコ)
- Karl Wieser先生(スイス)