日本肩関節学会の取り組み

学術論文

第37回高岸直人賞 基礎論文

飯尾 亮介

大阪公立大学大学院医学研究科

Parathyroid hormone promotes induction of beige adipocytes and reversibly ameliorates muscle quality and atrophy following chronic rotator cuff tear in a rat model
Iio R, Manaka T, Takada N, Orita K, Nakazawa K, Hirakawa Y, Ito Y, Nakamura H.
The American Journal of Sports Medicine. 2023 Oct;51(12):3251-3260.

この度は高岸直人賞という名誉ある賞をいただくことができ心より光栄に存じます。本選考委員の先生方ならびに選考にご尽力いただきました理事・代議員の先生方に心より御礼申し上げます。

腱板断裂後の腱板筋の脂肪浸潤と筋萎縮の進行は、腱板修復後の再断裂のリスクとなり、臨床成績不良につながる。Fibro-adipogenic progenitors(FAP)は、骨格筋における脂肪浸潤と筋の恒常性に関与する間葉系前駆細胞である。このFAPを褐色脂肪細胞様の「ベージュ脂肪細胞」に分化誘導することで、骨格筋の脂肪浸潤と筋萎縮が抑制されると言われている。本研究の目的は副甲状腺ホルモン(PTH)がFAPを褐色化させることにより、ラット腱板断裂後の脂肪浸潤と筋萎縮の進行を抑制するかを明らかにすることである。
SDラットを用いて広範囲腱板断裂モデルを作製しPTHを週3回皮下投与し、対照群には同量の溶媒を投与した。4・8週後にラットを安楽死させ、棘上筋の脂肪浸潤をオイルレッドO染色、筋萎縮を筋湿重量と筋繊維断面積、褐色化を免疫染色によるUCP1の発現で評価した。また、マウスから単離したFAPを脂肪分化培地で培養し、PTH投与の有無による褐色化関連遺伝子の発現量とBODIPY染色による脂肪滴の蓄積量を比較した。さらに、PTHを投与したFAPとC2C12の共培養により、C2C12の筋分化が促進されるか評価した。
PTHは腱板断裂後8週の棘上筋の脂肪浸潤の進行を抑制し、PTH投与ラットの腱板筋の筋湿重量の減少は断裂後4・8週で抑制された。さらに、PTH投与群は、腱板断裂後4・8週後において、対照群に比べて筋線維の断面積が大きく、UCP1の発現量も大きかった。また、PTHはFAPsの褐色化関連遺伝子の発現を増加させ、脂肪滴の蓄積を抑制した。PTH処理を行ったFAPsをC2C12と共培養させることによりC2C12の筋管への分化が促進された。
PTHは褐色化関連遺伝子の発現を上昇させることでFAPsをベージュ脂肪細胞へと分化誘導し、この褐色化効果により腱板断裂後の脂肪浸潤と筋萎縮の進行を抑制した。この結果よりPTHが腱板断裂後の脂肪浸潤や筋萎縮に対する治療薬としての可能性が示唆された。

最後になりましたが、本研究を行うにあたりご指導いただいた全ての先生方にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。

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