日本肩関節学会の取り組み

海外だより

ASES トラベリングフェロー帰朝報告

井上 和也

奈良県立医科大学整形外科学教室

2024年9月17日から約1カ月間にわたり、JSS/ASES Traveling Fellowとして千葉大学の落合信靖先生と一緒にアメリカで研修させていただく機会をいただきました。私は前半の約2週間について報告させていただきます。

ASES Traveling Fellowでは、訪問施設と日程はASES側で組んでいただき、ホテルや移動手段は各自で予約するという形でしたので、約1カ月間のホテル、国際線のフライトと、アメリカ国内のフライトや鉄道を、落合先生と電話などで連絡を取り合いながらすべてを予約して、万全の体制でアメリカに向けて出発しました。

最初の訪問先はニューヨークのColumbia Universityでした。2日間にわたりWilliam N. Levine先生(写真1)とCharles M. Jobin先生(写真2)の手術を見学させていただきました。腱板4件、アナトミカル人工肩関節置換術(TSA)6件、リバース型人工肩関節置換術(RSA)3件、脱臼1件、外傷2件と多くの手術を見学させていただきました。脱臼の手術では、本邦では容易に使用できないDistal Tibial Allograftを用いた手術も見させていただきました。ほとんどの手術をフェローやレジデントの若い先生が執刀しており、非常に教育的でありました。また、私が海外で手術見学することが初めてだったこともあり日本とは違うことが多く、全ての手術が日帰りで行われていることに大変驚きを覚えました。3日目はColumbia University内にある立派なカンファレンスルームにおいて、研究発表をさせていただきました。Columbia University内の多くの先生方がおられる中で大変緊張いたしましたが、無事研究内容を伝えることができました。その後Levine先生の外来も見学させていただきました。個室に先に患者さんが入って待っており、そこにDrが入っていき、握手で始まり握手で終わるというスタイルで、日本の外来との違いを感じることができました。

写真1:Columbia大学。William N. Levine先生(中央右)と
写真2:Columbia大学。Charles M. Jobin先生(中央左)と

2つ目の訪問先は同じくニューヨークのMount Sinai Hospitalでした。他の訪問先もそうだったのですが、病院に入るために提出しなければならない書類が多く、特に感染症の予防接種(インフルエンザ、COVID-19、麻疹、風疹、肝炎ウイルスなど)をしていないと病院に入れない施設が多かったです。Mount Sinai Hospitalはインフルエンザの予防接種をしていないと絶対に施設に入れないと言われ、9月時点で日本ではまだインフルエンザの予防接種は開始されておらず、私もしておりませんでした。急遽Mount Sinai Hospital訪問前日にインフルエンザの予防接種をしてくれるクリニックを自分たちで探し、落合先生と2人アメリカで予防接種を受けるという貴重な体験もしました。今後、Traveling Fellowに行かれる先生は出発されるまでに、予防接種の確認と、それを証明するための英語書類の準備をお勧めいたします。

Mount Sinai HospitalではLeesa M Galatz先生とBradford O Parsons先生(写真3)の手術を見学させていただき、研究発表の機会もいただきました。Mount Sinai Hospitalにおいても、フェローやレジデントの若い先生が執刀しておりました。

写真3:Mount Sinai Hospital. Leesa M Galatz先生(右から2番目)、Bradford O Parsons先生(中央左)との食事会

3つ目の訪問先はボルチモアにあるJohns Hopkins Hospitalでした。Uma Srikumaran先生(写真4)の手術とEdward MacFarland先生の外来を見学させていただきました。Johns Hopkins Hospitalでは、アキレス腱のアログラフトを用いた下部僧帽筋移行術を見ることができました。ちょうどこの頃から大きなハリケーンが来ているという噂を聞くようになりましたが、この頃は他人事のように聞いていました。

写真4:Johns Hopkins Hospital. Uma Srikumaran先生(中央)と手術場にて

4つ目の訪問先はメンフィスにあるCampbell Clinicでした。整形外科単科の病院で非常にきれいな施設で、実験設備も非常に充実しておりました。ここではTyler Brolin先生とQuin Throckmorton先生(写真5)の手術を見学させていただきました。人工関節と腱板修復を見学させていただいたのですが、予定されていた手術が2件中止になりました。1件は保険からの許可が下りないために中止となり、もう1件は患者さんが著明な肥満とのことで点滴が入らず、PICを入れてから再度手術予定を組むという、日本ではなかなか見られない理由での手術中止に驚きました。Campbell Clinicにおいても研究発表を行う機会をいただきました。発表自体は滞りなく終わったのですが、発表後にQuin先生より、次の目的地であるグリーンヴィルにハリケーン(Helene)が直撃し、訪問するはずであったSteadman Hawkins Clinicが停電しており、訪問することが難しいであろうことを伝えられました。Quin先生のお知り合いの先生がシャーロットにおられるとのことで、急遽連絡を取っていただき、次の目的地がグリーンヴィルからシャーロットに変更となり、ホテルと飛行機を急遽手配して、シャーロットに向かうこととなりました。

写真5:Campbell Clinic. 研究発表中。Tyler Brolin先生(中央左)、Quin Throckmorton先生(中央右)

5つ目の訪問先はシャーロットにあるOrthoCarolinaとなりました。シャーロットは非常にきれいな町並みで、COVID-19流行以後NYなどから移住してくる人が増えているとのことでした。突然の訪問にもかかわらずNady Hamid先生(写真6)には5件の手術を見せていただきました。手術は5件すべてが人工関節だったのですが、1つの症例で、患者さんの上腕骨が大きすぎ、一番大きなセメントレスステムを挿入しても固定性が得られず、セメントを使用しなければいけない症例があり、なかなか日本では経験できないような症例でした。また突然の訪問にもかかわらず、Hamid先生の自宅にも呼んでいただきバーボンパーティーをしていただきました。

写真6:OrthoCarolina. Nady Hamid先生(左から2番目)の自宅でバーボンパーティー

どの病院の先生方も大変親切にしていただき、非常に濃密な1ヵ月間でありました。

次の訪問先はタンパですが、後半は落合先生が報告していただけます。

最後になりましたが、このような機会を与えてくださった日本肩関節学会の理事、代議員の先生方、今回のTraveling Fellowに私を推薦してくださった末永直樹先生、1カ月ずっと一緒に過ごさせていただき、色々と助けていただいた落合信靖先生、長期出張を許可いただきました大学及び関連病院の先生方にこの場をお借りして深謝いたします。ありがとうございました。

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