日本肩関節学会の取り組み

海外だより

海外留学だより

矢作 善之

日本大学整形外科

1. 自己紹介

私は日本大学整形外科の矢作善之(やはぎよしゆき)と申します。川崎医科大学を2011年に卒業後、2013年に父と同じ日本大学整形外科医局に入局しました。スポーツ医学研究班に所属し、臨床では主に膝及び肩の関節鏡を中心に手術を行い、研究では2020年に膝関節の解剖の研究で日本大学大学院で博士号を取得しております。

2. 海外留学を行うことになったいきさつ

日本大学のスポーツ医学研究班では代々ピッツバーグ大学のACL再建で高名なDr. Fuの元に留学に行っておりました。しばらくDr. Fuへの留学者が途切れておりましたが、スポーツ医学研究班の先輩の先生方よりぜひ機会があれば留学に行くべきだとの勧めもあり、留学することとなりました。当初は2021年に留学を予定しておりましたが、我が子がオペで数か月間の入院が必要となり、留学を延期し、その間にDr. Fuがお亡くなりになるなど紆余曲折がありましたが、後任のDr. Musahlにメールしたところ快く私を受け入れて頂き、2023年4月から1年間留学に行くことができました。

3. 海外での留学や生活について不安だったこと、そしてその不安について現在はどう感じているか。

海外で不安であったことはやはり英語でのコミュニケーションに不安を感じておりました。また、ピッツバーグ大学への留学に際し、2022年より英会話の最低限の能力が必要とのことで試験を受ける必要があると言うことを言われた時も正直焦りました(基準はDuolingo English Testで90点以上)。なんとか95点でクリアできてほっとしました(同時期に留学していた他の日本人フェローも95点だったようで安心しました)。
1年間の留学を経て現在の英語力はどうかと言われると留学前よりはコミュニケーションをとれますが、ネイティブの英語は相変わらず聞き取りがうまくできないなど、まだまだだなと感じておりますが、留学前と比べると少しは英語でコミュニケーションがとれるようになっていると実感しております。

4.海外留学について家族に話した際の反応、海外での生活に関して

妻は海外留学に行くことに非常に好意的であり、喜んでアメリカに来てくれました。私よりも英語でのコミュニケーションが堪能であり、インド人やトルコ人の友人を作り、日本に帰りたくないと言うなどアメリカ生活を楽しんでくれことに感謝しております。また子供たちは当時1歳と3歳であったため、渡米時は海外に行くことがよくわかっていませんでしたが、アメリカ生活を堪能し、保育園も喜んで通っていたので良かったです。また、英語の発音に関しては私や妻よりも子供たちの方が非常に上手であり、小さいうちに英語に触れることができたのは貴重な経験であったと考えております。

海外での生活に関しては英語でのコミュニケーションや文化の違いが大変であり、ソーシャルセキュリティナンバーの取得に通常1-2週間のところが2か月半かかるなど苦労した面もありました。物価も当時1ドル約150円程度と円安の影響もあり、外食はあまりせず、つつましい生活を1年間しておりましたが、比較的日本の調味料や食材もアジアンスーパー等で調達ができ、問題なく食生活が送れたことは良かったです。つつましい生活の中でもスポーツ観戦、ワシントンDC、ニューヨーク、ディズニーワールドに家族で行ったことや、学会でボストン(ISAKOS)やロサンゼルス(ORS)に行けたことはいい思い出になりました(写真1、2)。

写真1:フロリダディズニーワールド
写真2:ボストンでの飲み会

海外留学を考えておられる方にアドバイスを

日本での常識とアメリカの常識で違うことが多いことは非常におもしろくいい経験になりました。少しでも興味がある方は海外に行って、日本との文化の違いを経験していただきたいと思います。英語力や海外での生活に不安がある方もいると思いますが行けばどうにかなるのでぜひ機会を作って行っていただければと思います。

6. ピッツバーグ大学で経験したこと

ピッツバーグ大学では同時期に神戸大学整形外科から2名(抽冬晃司先生、山本哲也先生)、名古屋市立大学整形外科から1名(井上淳平先生)がDr. Musahlの元に留学しており、大変お世話になり、感謝しております。(写真3)

写真3:左から順に抽冬晃司先生、井上淳平先生、Dr. Musahl、私、山本哲也先生

Dr. Musahlの元にはアメフトのピッツバーグスティーラーズや野球のピッツバーグパイレーツをはじめ、多くのスポーツ選手が来院し、多くのスポーツ症例もあり、見学のみではありますが、膝の前十字靭帯再建や半月板修復、肩の腱板修復術や関節唇修復術なども含めて見学し、多くのことを学ぶことができました。週に1回のACLミーティングでは発表の予演会や論文の抄読会をさせて頂いたり、他の日本人フェローや海外フェローの研究の進捗具合や学会発表の予演会を聞いて勉強させていただきました。神戸大学の先生方も所属しているBiodynamics laboratoryでは主に様々な動作を透視で撮像し、さらにCT画像を組み合わせての動作解析を多く行っておりますが、私は膝の解剖に関する研究を行い、週1回のラボミーティングでは研究の途中経過の発表をさせていただき、1年という短い期間で論文を1本acceptできたことはラボのボスであるDr. Anderstやラボのエンジニアのおかげであり、非常に感謝しております(写真4)。

写真4:Biodynamics laboratoryにあるBiplane radiography system (Bertec’s dual-belt instrumented treadmill, Vicon Motion Capture System) トレッドミルの上を歩行するなどの動作を透視2台で撮像可能な装置

また名古屋市立大学の先生方も所属しているOrhopaedic Robotics laboratoryでは主にキャダバーを用いた動作解析などの研究をおこなっていますが、このラボでは屍体膝の解剖の手伝いやラボミーティングに参加させていただき、様々な経験をすることができました(写真5)。

写真5:Orhopaedic Robotics laboratoryにあるMulti-DOF Joint Tester Robot (Technology Service Ltd. Model FRS2010)

最後になりますが今回の海外留学を通じて仕事ではアメリカでの研究意欲の高さを学べ、プライベートでは多くの文化の違いを体験でき、家族との時間を多くとれ、一生に一度の貴重な経験をできたことは改めて留学に行って良かったと考えております。

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